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高知家庭裁判所 平成8年(少)1157号 決定 1997年1月27日

少年 A(昭和○年○月○日生)

主文

1  平成8年(少)第1158号事件

少年を教護院に送致する。

2  平成8年(少)第1157号事件

本件を高知県立○○児童相談所長に送致する。

少年に対し、平成9年1月27日から向こう1年間の間に、90日間を限度として、その行動の自由を制限し、またはその自由を奪うような強制的措置をとることができる。

理由

(審判に付すべき事由)

1  ぐ犯事由及びぐ犯性(平成8年(少)第1158号事件)

少年は、当庁において、平成7年7月11日強制的措置許可決定がなされ、同月12日に国立養護院a学院に入院した。少年は、平成8年9月初め、一時停止措置として、同学院を退院して自宅に帰宅し、地元のb中学校に進学することになっていたが、ほとんど登校せず、登校しても教室に入ることはなく、その間、家出、深夜徘徊を繰り返し、同年10月11日、同月24日、同年11月27日に合計4回のひったくり(窃盗)を起こし、また、同年11月23日には同級生に電話を架けて「今日の夜9時にc寺に5万円持ってこい。持ってこんかったらお前命ない。月曜日に捕まえてぼこぼこにするぞ」と言って金員の交付を要求し、その要求に応じなければその身体に危害を加えるような気勢を示して畏怖させ、金員を喝取しようとしたが、同人がこれに応じなかったため、その目的を遂げなかった。このほか、少年は、中学生や小学生に対する恐喝を繰り返している。

少年は、児童相談所からの、国立教護院に帰るようにとの説得に対しては、帰院する旨返事はするが、約束した日には家出をし、実行されることはなかった。

このように、少年は、保護者の正当な監護に服さず、自己または他人の徳性を害する性癖があり、その生活及び環境に照らして、将来、窃盗、恐喝等の罪を犯すおそれがある。

2  強制的措置許可申請の要旨(平成8年(少)第1157号事件)

少年は、当庁において、平成7年7月11日強制的措置許可決定がなされ、同月12日に国立教護院a学院に入院した。その後、同院から高知県立○○児童相談所に社会復帰による指導が適当である旨の協議があり、家庭に帰ってからの状況を観察する必要があることから、少年は、平成8年9月初め、一時停止措置として、同学院を退院して自宅に帰宅した。しかし、少年には、上記1のぐ犯事由があり、家庭においては監護力は皆無であり、このまま放置すれば、窃盗等反社会的行為を繰り返す可能性が極めて高く、少年に対し、強制措置寮において在院中、通算90日間の強制的措置をとることの許可を求める。

(法令の適用)

ぐ犯事件につき、少年法3条1項3号本文、同号イ、ニ

(当裁判所の判断)

1  少年は、小学校1年生の時から、実兄らと一緒にひったくりなどの窃盗行為を繰り返したため、平成6年12月6日、当庁において、教護院であるd学園に送致されたが、無断外出を繰り返すなどしたため、高知県立○○児童相談所から当庁に対し、強制的措置許可申請がされたが、平成7年3月20日には、同申請が不許可となって、同学園に帰園した。しかしながら、少年は、帰園直後から無断外出して、その後も無断外出を繰り返し、無断外出中に窃盗、タクシーの無賃乗車、恐喝などを行ったことから、再度高知県立○○児童相談所から当庁に対し、ぐ犯事件の通告と共に強制的措置許可申請がされて、平成7年7月11日、強制的措置許可申請を許可する旨の決定により、同月12日、国立教護院a学院(以下「a学院」という)に入院した。

少年は、a学院では、入所時の10日間オリエンテーションの一環として強制的措置を受けただけで、大きな問題行動はなく、基礎学力不足は顕著ではあるが、漢字を覚えたり文字を覚えて一応の文章が書けるようになり、平成8年5月に水泳部に入部してからは、水泳の力を除々に発揮し、8月の大会では優勝する活躍をし、スポーツ面では意欲的な取り組みが見られ、進歩が見られた。

2  少年は、前述のように、特に大きな問題行動はなく、スポーツ面では意欲的な取り組みも見られたことから、平成8年9月3日、一時停止措置により、a学院を退院し、自宅に戻った。翌日から、b中学校に登校するように学校側とも話し合ったが、少年は、坊主頭であったことや手の水イボを見られるのが嫌で、登校しなかった。少年は、9月中旬ころから、時々友人と共に登校もするようになるが、職員室や保健室にいて、教室には入らず、午前中だけで帰宅するような状態であった。

そのうち、少年は、遊ぶ金等が欲しくなり、平成8年10月上旬、同級生や小学生から現金を喝取するようになり、同月11日には、高知市△△の路上でひったくりを行い。同月18日警察署で取調べを受けたが、取調べを受けてからは、学校に行けば警察に捕まる、家にいても捕まる、と考えて、全く登校しなくなったし、昼間は押入に隠れ、深夜遊びに出るようになった。

少年は、母親の同意のもとで、a学院に戻る手筈となり、平成8年11月1日、児童相談所職員が自宅まで迎えに行ったが、少年は不在であった。そして、その後も、少年は、恐喝未遂、ひったくりのぐ犯行為を繰り返していたものである。

3  少年は、前述したように、a学院での生活で、漢字や字を覚え、一応の文章を書くことができるようになり、スポーツ面では意欲的な取り組みを見せて、活躍するなど、成長の跡が見られる。しかし、一方、少年は、遊ぶ金欲しさに恐喝やひったくりを行っており、非行に対する抵抗感や罪障感など全くないまま、日常行動と同じような感覚で非行を働いており、それが大きな特徴であり、問題である。そして、「ひったくりした後、被害者は晩御飯をどうするんだろうな、と考えた」「同級生の恐喝の被害者のことは考えてない」と審判廷で述べるように、少年には、被害者に対する同情の気持ちが余り窺えない。

また、少年が鑑別所に収容された過去3回、一度も面会に来なかった実母が、今回は長姉と共に面会に訪れたり、審判廷においても、実母、長姉共に、少年の施設での収容生活が長いこともあるので、今回は何とか在宅での指導をしていきたいと述べるなど、以前からすれば、少年に対する関心が高まっていることは見受けられるが、しっかりした教育方針があってのことではなく、必ずしも期待は持てない。

4  以上のような経緯からすると、今後の少年の処遇にとって、一番大切な点は、安定した生活環境で、安定した対人関係を経験する中で、情緒的な交流体験を積み、信頼関係に裏付けされた行動規制の在り方を学ぶことにあると考えられる。一方で、少年は、11歳から施設に収容されていることから、施設歴を長くすることは、地域との繋がりを希薄にさせ、社会生活から隔絶してしまう危険性を強めることにもなる。

しかしながら、依然として改善の兆しが見えない少年の性格・行動傾向における未熟性、保護環境の問題を考えると、少年をこのまま現在の保護環境に置くことは、少年にとってマイナスの面が大きいと考えられる。

したがって、ぐ犯事件については、少年を教護院に送致することが相当であると考えるが、地元のd学園の入園については、以前の頻繁な無断外出の繰り返しなどから、極めて困難であり、少年の自由を制限するなどの強制的措置をとり得る教護院において少年の指導・教育を行うこともやむを得ないものであり、強制的措置許可申請を許可すべきものと判断する次第である。

よって、ぐ犯保護事件につき少年法24条1項2号を、強制的措置許可申請事件につき同法23条1項、18条2項をそれぞれ適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 高原章)

〔参考〕抗告審(高松高 平9(く)3号 平9.2.7決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成の抗告申立書に記載のとおりであるから、これを引用する。論旨は、要するに、少年を教護院に送致した原決定の処分は著しく不当であるというのである。

そこで、少年保護事件記録及び少年調査記録に基づいて検討するに、本件非行は、少年が、平成7年7月11日、高知家庭裁判所において強制的措置許可決定がなされ、同月12日、教護院国立a学院に入院し、平成8年9月3日、一時停止措置により同学院を退院して自宅に戻り、中学校に通学することになったが、ほとんど登校せず、家出や深夜徘徊を繰り返し、同年10年11日から同年11月27日までの間に、4件のひったくりをしたり、同級生から金員を喝取しようとするなどし、このほかにも恐喝を繰り返しており、保護者の正当な監護に服さず、自己又は他人の徳性を害する行為をする性癖があり、その性格及び環境に照らして、将来、窃盗、恐喝等の罪を犯すおそれがあるというぐ犯の事案であるところ、少年は、小学一年生のころから窃盗を繰り返すなどし、平成6年12月6日、ぐ犯、触法保護事件により教護院に送致され、教護院d学園に入院したが、無断外出を繰り返し、窃盗や恐喝を行うなどしたことから、強制的措置が必要とされ、平成7年7月11日、高知家庭裁判所において強制的措置許可決定がなされ、同月12日、前記国立a学院に入院し、同学院では大きな問題行動はなく、スポーツ面では意欲的な取組が見られ、進歩が見られたことから、前記のとおり、平成8年9月3日、一時停止措置により同学院を退院して自宅に戻り、中学校に通学することになったものの、ほとんど登校せず、家出や深夜徘徊を繰り返し、ひったくりや恐喝を繰り返していたものであること、少年の性格は自己中心的で、恣意的、短絡的に振る舞う傾向があること、少年の保護者には少年に対する監護が期待できない状態にあることが認められる。これらの事情に徴すると、少年に対しては、教護院において強力な教育を受けさせる必要があると認められるから、少年を教護院に送致するとした原決定の判断は相当であって、これが著しく不当であるとはいえない。

よって、少年法33条1項、少年審判規則50条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 田中明生 裁判官 三谷忠利 山本恵三)

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